望まない妊娠を減らしたいと切に願っている産婦人科医のうなぎいぬです。
アフターピルって知ってますか?
『アフターピル(緊急避妊薬)』というのは、
避妊に失敗したときに、後から飲むことで避妊することができる、
という、『レボノルゲストレル』というホルモン剤です。
セックスの後、はやく飲むほど避妊率は高いですが、
一応、72時間以内なら妊娠阻止率 84%と言われています。
『妊娠阻止率』というのは、生理周期から妊娠してしまう可能性が高い場合に、
緊急避妊薬によって妊娠を回避できた確率、という意味です。
なので、全体の避妊率はもっと高く、98%以上です。
でも排卵は容易にずれうるので、安全日だから大丈夫、という過信は禁物です。
アフターピル内服で避妊できるのは、
どういうメカニズムかというと、
・ 排卵前の場合には、排卵を抑制する。
・ 排卵後だったとしても、着床を阻害する
という二段構えで、妊娠を阻止します。
産婦人科医的には、すばらしい薬です。
もちろん、『最後の砦』としてですが。
アフターピルがあるから避妊しなくてよい、なんて発想はナンセンス、
全くそんなことはありません!!
妊娠する気がないのであれば、避妊するのが大前提です。
それでも、うっかり避妊に失敗してしまうことはあるでしょうし、
さらに、レイプなど性的暴行の被害にあった場合などには、
本当に女性の味方の薬です。
ただ、日本では、産婦人科を受診しないと処方してもらえません。
海外では、すでにOTC(over the counter)化されていて、
薬局で市販されている薬です。
OTC化、というのは、薬局で市販できるようにすること、という意味です。
薬の性質上、だれでもいつでも購入できることで効果が最大限に発揮されるのですが、
受診しないといけない、というだけで、
時間的にも精神的にも足かせとなってしまいます。
さらに土日で病院が休みだったりしたらますます遅くなります。
論理的に考えれば、OTC化するべきでしょ、という発想になるので、
すでに、厚労省で『OTC化の可否』を検討する会議が開かれています。
2017年7月に第二回が開かれたのですが、
反対意見多数で、否ありきの姿勢に、
産婦人科医、薬剤師から反発があり、
パブリックコメントが募集されました。
それをうけて、2017年11月に第三回会議が開かれました。
パブコメの結果は、なんと、
賛成 320件
反対 28件
でした。
にもかかわらず、結論は『否』のままでした。
なんのためのパブコメ募集なんでしょうか。
第二回の時の、『否』の理由としては、
・ 医師に寄る性教育の機会が失われる
・ 薬剤師が説明できるとは思えない
などですが、
実際のところは、
クリニックの売り上げがその分減ってしまうから、
というのが本音のようです。
今は、アフターピルは自費処方なので、院内処方にできます。
自費で院内処方なら、価格設定は自由です。
クリニック的にはそれなりの収益になるのでしょう。
性教育の機会が減るとか、
アフターピルが普及すると避妊しなくなるのでは、
とか危惧する前に、
いま現状、なにが目的か、なにが最優先事項か、です。
なぜアフターピルをOTC化した方がいいかというと、
防げる望まない妊娠は、防いだ方がいいから。
なぜなら、
望まない妊娠が減る →人工妊娠中絶が減る
→(産んだ場合の)虐待が減る
からです。
新生児の虐待の約70%は望まない妊娠です。
もちろん、自分で育てずに、養子縁組という方法もありますが、
妊娠出産が女性の人生に与える影響は大き過ぎます。
10代なら、学業に影響しますし、
社会人なら、仕事にも影響します。
そして、養子縁組はまだまだ日本では浸透していませんので、
養子にだすとなると、人目をとても気にしてしまうでしょう。
人工妊娠中絶すればいいじゃないか、
というドライな意見もあるかもしれませんが、
中絶手術自体もリスクを伴いますし、
倫理的にも費用的にも重くのしかかります。
そもそも、妊娠に気づくのが遅ければ、中絶することすらできなくなります。
繰り返しますが、妊娠を希望しないなら避妊するのが大前提です。
感染症予防のためにも、コンドームを使用しましょう。
でも、それでも、うっかり中だししてしまったら、
その場合には、アフターピルがありますよ!
という話です。
というわけで、アフターピルは即刻OTC化するべきなのですが、
一方で、アフターピルの認知度がまだまだ低いのも問題です。
『緊急避妊薬』を知っているのはたった20%!!
(K. Inaba et. al, Adolescentology 2017 Vol.35 321-330)
しかも、知っていても、その効果を信用していない人もいるでしょう。
先日、それなりの有識者から、『アフターピルって効くの?』と聞かれ、
全然信頼されていないことに衝撃を受けました。
アフターピルの効果自体も、もっともっと啓発していかないといけませんね。
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