2018年2月13日火曜日

アフターピルはなぜOTC化されないか

望まない妊娠を減らしたいと切に願っている産婦人科医のうなぎいぬです。

アフターピルって知ってますか?

『アフターピル(緊急避妊薬)』というのは、

避妊に失敗したときに、後から飲むことで避妊することができる、

という、『レボノルゲストレル』というホルモン剤です。

セックスの後、はやく飲むほど避妊率は高いですが、
一応、72時間以内なら妊娠阻止率 84%と言われています。
『妊娠阻止率』というのは、生理周期から妊娠してしまう可能性が高い場合に、
緊急避妊薬によって妊娠を回避できた確率、という意味です。
なので、全体の避妊率はもっと高く、98%以上です。

でも排卵は容易にずれうるので、安全日だから大丈夫、という過信は禁物です。

アフターピル内服で避妊できるのは、
どういうメカニズムかというと、

  排卵前の場合には、排卵を抑制する。
  排卵後だったとしても、着床を阻害する

という二段構えで、妊娠を阻止します。

産婦人科医的には、すばらしい薬です。
もちろん、『最後の砦』としてですが。

アフターピルがあるから避妊しなくてよい、なんて発想はナンセンス、
全くそんなことはありません!!
妊娠する気がないのであれば、避妊するのが大前提です。

それでも、うっかり避妊に失敗してしまうことはあるでしょうし、

さらに、レイプなど性的暴行の被害にあった場合などには、
本当に女性の味方の薬です。

ただ、日本では、産婦人科を受診しないと処方してもらえません。
海外では、すでにOTCover the counter)化されていて、
薬局で市販されている薬です。
OTC化、というのは、薬局で市販できるようにすること、という意味です。

薬の性質上、だれでもいつでも購入できることで効果が最大限に発揮されるのですが、
受診しないといけない、というだけで、
時間的にも精神的にも足かせとなってしまいます。

さらに土日で病院が休みだったりしたらますます遅くなります。

論理的に考えれば、OTC化するべきでしょ、という発想になるので、
すでに、厚労省で『OTC化の可否』を検討する会議が開かれています。

20177月に第二回が開かれたのですが、
反対意見多数で、否ありきの姿勢に、
産婦人科医、薬剤師から反発があり、
パブリックコメントが募集されました。

それをうけて、201711月に第三回会議が開かれました。

パブコメの結果は、なんと、
 賛成 320
 反対 28
でした。

にもかかわらず、結論は『否』のままでした。

なんのためのパブコメ募集なんでしょうか。

第二回の時の、『否』の理由としては、

  医師に寄る性教育の機会が失われる
  薬剤師が説明できるとは思えない

などですが、

実際のところは、
クリニックの売り上げがその分減ってしまうから、
というのが本音のようです。

今は、アフターピルは自費処方なので、院内処方にできます。
自費で院内処方なら、価格設定は自由です。
クリニック的にはそれなりの収益になるのでしょう。

性教育の機会が減るとか、
アフターピルが普及すると避妊しなくなるのでは、

とか危惧する前に、
いま現状、なにが目的か、なにが最優先事項か、です。

なぜアフターピルをOTC化した方がいいかというと、

防げる望まない妊娠は、防いだ方がいいから。

なぜなら、

望まない妊娠が減る            →人工妊娠中絶が減る
                                       →(産んだ場合の)虐待が減る

からです。

新生児の虐待の約70%は望まない妊娠です。

もちろん、自分で育てずに、養子縁組という方法もありますが、
妊娠出産が女性の人生に与える影響は大き過ぎます。

10代なら、学業に影響しますし、
社会人なら、仕事にも影響します。

そして、養子縁組はまだまだ日本では浸透していませんので、
養子にだすとなると、人目をとても気にしてしまうでしょう。

人工妊娠中絶すればいいじゃないか、
というドライな意見もあるかもしれませんが、
中絶手術自体もリスクを伴いますし、
倫理的にも費用的にも重くのしかかります。

そもそも、妊娠に気づくのが遅ければ、中絶することすらできなくなります。


繰り返しますが、妊娠を希望しないなら避妊するのが大前提です。
感染症予防のためにも、コンドームを使用しましょう。

でも、それでも、うっかり中だししてしまったら、
その場合には、アフターピルがありますよ!

という話です。

というわけで、アフターピルは即刻OTC化するべきなのですが、

一方で、アフターピルの認知度がまだまだ低いのも問題です。

『緊急避妊薬』を知っているのはたった20%!!
K. Inaba et. al, Adolescentology 2017 Vol.35 321-330
しかも、知っていても、その効果を信用していない人もいるでしょう。

先日、それなりの有識者から、『アフターピルって効くの?』と聞かれ、
全然信頼されていないことに衝撃を受けました。


アフターピルの効果自体も、もっともっと啓発していかないといけませんね。

2018年2月8日木曜日

HPVワクチン報道 〜数字のトリック

23日開催の『市民とともに日本における子宮頸がん予防(HPV)ワクチンの今後を考える』という公開講座には、メディアも参加していて、TBSはじめいくつかのニュースサイトでは『子宮頸がんワクチン、産科婦人科学会が有効性を紹介』と報道してくれていました。
ちゃんと報道して下さりありがとうございます!

5日(月)の朝のNHKニュース『おはよう日本』でも、HPVワクチンについて取り上げられていました。

20代で子宮頸がんを発症し子宮全摘を受けて、妊娠出産を断念した患者さんが、ワクチン接種の大切さを訴える。
 ↓
接種率が下がっている現状、「ワクチンはうたせない」と話す母親
 ↓
ワクチン接種後に、激しい痛みなどで一時は寝たきりになった患者さん
 ↓
HPV専門家の日大の川名教授が「ワクチンのメリット・デメリットを
わかりやすく説明するべき」と指摘

という流れで、一応、両方の立場の患者さんも登場しているし、
できれば産婦人科医としては接種勧奨してほしいけれど、
抗議が予想される内容は放送しないでしょうから、
まぁあたりさわりない内容で専門家の意見をまとめられたのも致し方ないか、

と、あまりかたよりのない内容ではあったけど、インパクトはないなー、
くらいに思っていたら、

医療関係者じゃない旦那さんは、

「今の聞いたら、接種したらあぶない、うたない方がいいって聞こえたよ」
と。

たしかに、ちょっと気にはなっていたのですが、放送の中ででてきた数字が、

●ワクチンを打つことで、10万人あたり209人の死亡を防ぐ

  接種後、3130人に痛みなどの症状がでた(10万人あたり92.1人)

これをきいて、どう思いますか?

自分は医者なので、ついついちゃんと、
割合、つまり何人あたりなのか、絶対数なのかを意識してみますが、
一般の人からしたら、数字だけが頭に入ってくると思うんです。

しかも、3130人というのは、全ての副反応疑いの数であって、

そのうち重篤と判断されたのは1784人(10万人あたり52.5人)で、
しかも、これには、「接種後に短時間で回復した失神」も含まれているのです。

「失神より軽い症状まで含めた副反応」が
あたかも全て重篤な副反応かのようになっていて、
しかも、こちらについては絶対数を前面にだしてくる、という、
すごい作為的な報道でした。

そもそも、
「子宮頸がんによる死亡」と「失神より軽い症状まで含めた副反応」
を比べてることがおかしいのですが。


だいたい、厚労省が「うつかどうかよく考えて」と言ってるというのは、
一般の人からしたら、「うたない方がいいみたい」ととらえますよね。

せっかくHPVワクチンが取り上げられたのに、やっぱり残念な内容でした。。


そして、旦那さんの感想を聞かなかったら気づかなかった一般の人の捉え方と、
医者の感覚とが、やっぱり乖離していることを反省。。

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